目次
導入
皆さんは自分を元素に例えるならなんだと思いますか。
お堅い性格だから炭素(ダイヤモンド),ノリが軽いから水素,興味があればすぐ反応するからフッ素,毒舌だからヒ素,ちいさなことでも憤慨するからフランシウム…
化学系の学生ならこういう遊びしたことある人いるのではないでしょうか。
いないですか。
結構楽しいと思うのですが。
…それはそれとして,本記事では私の推し元素「ビスマス」についてを延々と語っていきます。
はじめに,本記事で紹介するビスマスの特徴は私が得た知識と経験に基づいています。
情報の正確性は弱いので「こういう元素があるんだ」という気持ちで軽く読んでいただけると幸いです。
ヒトにとって良心的な元素ビスマス
融点が低くやわらかい
ビスマスは銀白色の金属元素です。
遷移元素(3~11族)から離れた15族に属しています。
そのため遷移元素に属する金属とは異なり,融点が低くやわらかいのが特徴です。
ビスマスの融点は271.4℃。
鉄(約1500℃)と比べるとかなり低いですね。
もう一つ鉄と比べるとするならば密度でしょうか。
鉄の密度7.8 g/cm3と比べてビスマスの密度は9.8 g/cm3とかなり重ためで,30×30×5 mmのチップでもずっしりしています。
釣具のおもりや胃腸薬にも使われている
和名は蒼鉛。
性質が鉛に似ていることからそう呼ばれています。
主に鉛を使わないはんだ合金の材料や釣具のおもり,胃腸薬などに使われています。
そう,このビスマスという元素,薬にも使われるすごい子なのです。
ヒ素やアンチモン,モスコビウムなどがっつりしっかり毒性のあるコワモテが集まる15族元素のなかで珍しく,ヒトにとって良心的な元素がビスマスなのです。
といっても整腸剤に含まれるビスマスは,次硝酸ビスマスという化合物として存在しており,ビスマス単体として医療や産業に活かされることはほとんどありません。
でもひとつだけ,純ビスマスしか持ち得ない魅力があります。
みにくいアヒルの子
純度99.9 %のビスマスはこんな色かたちをしています。
Q. 鈍い色。どう見ても普通の金属と同じ。ちょっと錆びてない?ワハハ。
A. いいえ,これから化けるんです。
銀白色と説明したから雪の結晶みたいにキラキラしたものを想像されたかもしれませんが,所詮こんなものです。
これは余談なんだけれど,化学実験の教科書でよく見る「乳白色」とか「シアンブルー」みたいな色の表現,ちょっと大げさだよね。
実際は思ってたのよりきれいじゃない。
余談終わり。
化けるのは人工結晶になったとき
ビスマスには別の顔があります。
それは人工結晶になったときに姿を表すのです。
人工結晶と言っても特別難しい操作は必要ありません。
上のチップを溶かして,もう一度冷ますだけ。
完全に個体になる前にひょいと掬って上げればあら不思議。
虹色の鉱石に姿を変えるのです。
結晶の秘密「構造色」
なぜビスマスは結晶になると多彩な光沢を発するのでしょう。
それはこの色が,ビスマスそのものの色ではないからです。
結晶化した際に何らかの要因により着色されたということになります。
それはなにか。
その答えを示す前に,色が見える原理をおさらいしましょう。
色は物体が光を反射したり吸収したりして私達の目に届くことで見えるものでしたね。
おさらい終わり。
何色にも変身できる
ビスマスは加熱により酸化して表面に酸化膜を生じます。
酸化膜は何層にも重なっていきますが,できる場所によって層の数が異なります。
層の数が異なると光が各層で別々の反射を起こし,反射した光がお互いに作用しあって色を示します。
そのためビスマスの結晶は何色にもなることができるのです。
このように,物質そのものに色はないけれど,光の干渉によって作り出される色を構造色と呼びます。
CD,タマムシ,シャボン玉が構造色の代表的なところですかね。
結晶の秘密「骸晶」
ビスマス結晶の階段のような不思議な構造。
このような構造を持つ結晶を骸晶(がいしょう)と呼びます。
結晶はまず,最初に析出した結晶粒子を土台(核)にして,周りに次々と個体が集まっていくように成長して目に見えるようになります。
この成長の仕方が様々あり,箱を並べ積み上げるように規則正しく粒子が集まっていくと食塩のような四角い結晶になり,土台を中心にして平面的に広がっていくと雪の結晶のような平たい結晶になります。
ビスマスの場合,箱を積み上げるようにしてできていく方なのですが,とにかくカドに積み上げたいという性質があり,一段目が埋まる前に次のカドが育っていきます。
これを繰り返していくと階段のような形の結晶(骸晶)ができあがるのです。
骸晶をもつ鉱石はビスマスだけではありません。
上記の塩や雪の結晶も細かな結晶がカドに積み重なっていくと骸晶を示すことがあります。
しかしながら,ここまでくっきりと階段状になる骸晶はビスマス以外に見たことがありません。
このように,ビスマスの結晶は酸化膜による多彩な着色と,骸晶による神秘的な形状をあわせもち,金属光沢も手伝って,オーパーツを彷彿とさせる”ロマン”をその身から放っているのです。
じつはこのビスマスの結晶,お家で簡単に作ることができます。
材料の純ビスマスチップはネットでお安くお取り寄せできます。
ものによりますがだいたい1kgで3000~4000円ほど。
大まかな手順は以下の通りです。
道具
ステンレス鍋(底の深いものが望ましい)
金属製のトング(ピンセット)
コンロ
手順
- 鍋にチップを入れてどろどろに溶かす。
- 溶けたら表面の酸化膜を取り除く
- 融点(270℃)近くまで冷ます。
- 液面に四角い結晶が析出してくるのでトングで摘み取る。トングは予め熱しておくとつまんだ結晶がくっつきにくい。
- 完成!
アドバイス
ビスマスが溶けると温度は300℃近くになります。
様子を見ながら中火でゆっくり溶かすこと。
とても重いので鍋を持つときはしっかりと。
溶けたビスマスに水が入らないよう注意すること。
熱湯になって飛び散る可能性があります。
固まったビスマスが鍋から外れないことがあります。
捨ててもいい鍋を使うことをおすすめします。
ビスマスは柔らかいので,結晶を保存したいときはレジンコーティングすることをおすすめします。
詳しい手順はネットで調べるとサイトや動画もたくさん出てきます。
もっと効率のいいやり方や,より大きな結晶を作る方法など,作っていくうちに発見するのも楽しいので,興味のある方はぜひ調べてみてください。