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楽器の音について
突然だが皆、楽器の音はどのように決まっていると思う?
「おいおいそんなの物理でやったじゃないか。管の長さを音速で割ってやるんだよ。そんなのもわからないのか?」
確かにそれなら、ある程度大まかな音程は得られるだろう。
だが、これを見ている吹奏楽経験者なら、夏の楽器がホカホカする季節になると、音程が何処かへ行ってしまう現象に出くわしたことは無いだろうか。
これもその理論だけで果たして説明できるだろうか。
計算してみよう!
温められた管が膨張して、全体の管長が伸びたから?
楽器内の空気が温められて音速が変化したから?
いや、前者は最短でも全長が5.40mあるチューバでも起こるし、チューバで音程の変化が起きるほど膨張するなら、楽器がケースに入らないという事態が起きてもおかしくない
(何より楽器に塗布してあるラッカーがひび割れるだろう)。
後者にしても、室温15℃では340[m/s]、室温30℃ではおよそ350[m/s]で、音速の差は10[m/s]、これをチューバの管長で割ってやると音程の変化量がざっくりと出るはずだが、これで出た値は
10[m/s]/5.4[m]=1.851[Hz]
およそ1.85[Hz]。
A=442[Hz]の次の音との差(B♭=468[Hz])を100[cent]で割ってやると、1セントあたりのヘルツが大まかに出せるが、それによると
468-442[Hz]/100[cent]=0.26[Hz]
0.26[Hz]である。
音程の変化量を1セントあたりのヘルツで割ってやると何セントかが出せ、
1.85[Hz]/0.26[Hz]=7.115…[cent]
となる。経験者は思いだして欲しい。こんな程度の音程の変わりようではなかったはずだ。
もっと、例えば25セント位は音程が上がっているはずだ。
これは自分が吹いていたチューバの数字を使って計算したので他の楽器では当てはまるかは分からないが、少なくとも反例がある以上は上記の仮定は正しくなく、まだ何か考慮していないものがあるだろう。
正確な音程を知る
さあ困ったぞ。
正確な音程を知りたいけど、そもそもそんな実用的な計算をするのは管楽器設計者位のものだ。
ここから先は企業知なのか?我々一般人に知る由は無いのか?
そんな迷える子羊にお勧めしたいのがこの本
『楽器の物理学』
版社営業部の説明は「美しい音を奏でる楽器の仕組みを物理学的に解剖した本」である。
この本は、世の中にある楽器の論文をN.H.フレッチャーらが集め、まとめて要約し、記述した『The Physics of Musical Instruments』を岸 憲史らが翻訳した本で、兎に角、楽器の音が出る仕組みを纏めて記述した本になっている。
驚くべきはその参考文献の数だ。
各章の末尾に参考文献を示してあるのだが、恐らく各章につき20本位は引用している。
これだけの数をわざわざ探して調べるのは骨が折れる(しかも中には19世紀に出たものもあるので入手難度は高い)ので、こうして1冊にまとまっているのはとても素晴らしい。
Tell me!!!
ここまで話したら読者の君たちはこう思うだろう。
「じゃあ一番最初に示した問いに対する答えも載ってるんだろ?教えてくれよ!」
答えは「I don’t know」。分からない。
「お前は読了していない物を愛書として紹介するのか!」と言われればそうだが、これを見て欲しい。
これは機械科御用達のノギスで本書の厚みを測ったのだが、なんと4㎝もある。
因みに写真は無いが重さは約1.3kgある。(台所の秤を使って計測したものを見せるつもりであったが、最大荷重が1kgだったのでエラーが出てしまった。)
これを見て分かる通り、本書は大変中身が濃く、なんと760ページもある。
尚且つ、いくつもの論文を纏めて書いた本なので、1ページ辺りの情報量も多い。
ページ毎に1文字1文字何を言っているかを理解してから次のページに進まないと、何を言っているか訳が分からなくなる。(翻訳本特有の横文字の固有名詞も数多く出てくる。横文字アレルギーの人は心すべし。)
尚且つこの本、似た本がない為界隈では垂涎物で、大量の在庫が入ったにも関わらずすぐに売り切れているという事も良くある事だ。
基本、在庫があれば即買いしとけ、というくらい入手が安定しない。
私も1月辺りに本書を欲しいと思ってA〇〇〇〇nを見たのだが売り切れており、やっと手に入ったのは3月だった。
そこから読み始めているのだが飛ばし読みをすると分からなくなる為に、未だに真相に近づけていない。
まとめ
今回は自分の(今読み進めている)愛書を紹介したが、いかがだっただろうか。
こちらの本、中身が難しいと言っても、最初は音の基本になる振動だけを取り上げて説明しているので、最初から読んでもわかりやすいのではないかと思う。
一方、工学科の学生なら親しみのある定数もでてくるので(例えばヤング率!)、その道を専攻している人なら、すっと頭に入ってくるだろう。
このように、大変読み応えのある本なので、皆さんも一度読んでみてほしい。とにかくこの本、あらゆる楽器を公式化しているので、この一冊があれば貴方の大抵の疑問に(勿論記事の頭で示した疑問にも、)答えてくれるだろう。